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中国の保険薬について:(2)中国保険償還リストの更新と薬価交渉

中国市場

2020.10.19

保険薬を収載した中国保険償還リストは「国家基本医療保険、労働災害保険、出産保険医薬品目録」(以下、「目録」と略す)と呼ばれ、化学薬品(西洋医学用医薬品)、中薬(生薬及び単味薬材)、中成薬(生薬の配合剤)の3つのカテゴリーに分けられる。償還について甲類と乙類の2つに分けられている。甲類の薬は、償還率に応じて払い戻される。乙類の薬は、一部自己負担、残りの部分を償還で払い戻される。なお、償還率は、地域の方針や薬ごとに異なる。

2019年版の「目録」では、医薬品の一般名で、1279の化学薬品、1316の中成薬(93の民族特有の薬を含む)、892の中薬が収載され、さらに114の交渉を経て収載された医薬品(91の化学薬品と23の中成薬を含む)が加えられ、 計2709の医薬品の収載となった。甲類に分類される医薬品は、398の化学薬品、242の中成薬であり、その他はすべて乙類に分類される。114の追加収載医薬品は乙類の分類となり償還される。

 

1. 「目録」更新の遅延及びそれによる社会問題

「目録」は原則として2年ごとに見直し或いは追加されるが、実際には2000年、2004年、2009年、2017年、2019年に更新された。特に2009年から2017年の間、8年にわたって目録が更新されていなかった。この「目録」の更新の遅れは、新しく上市された医薬品の保険収載に長期間を要し、国民・患者の医薬品へのアクセスが確保できない重大な問題を引き起こした。

つまり、高齢化や慢性疾患の発症の増加に伴い、より重要な効能効果を持つ新薬の需要が大幅に増加していること;革新的な医薬品は、莫大な研究開発費のためにしばしば高額になることが原因で、保険基金への支払い圧力が急激に高まっている。被保険者は、「目録」に掲載されている医薬品と最新の薬物治療との乖離が生じているため、がんなどの治療薬、特に欧米で承認されている高価格の医薬品へのアクセスが制限され、「目録」外の最新の医薬品を使用せざるを得ず、負担が増大し、「看病難、看病貴」(診療を受けるのが難しく、受けられても医療費が高い) といった社会問題が発生する重要な一因となった。そのため、中国では、「目録」収載のための科学的かつ合理的な動的調整システムを緊急に整備する必要があった。

 

2.薬価交渉による「目録」収載      

臨床ニーズを満たし、革新的な医薬品の開発を促進するために、革新的な医薬品の「目録」収載の時間を短縮し、効率的な動的調整システムを策定するために、2015年から2019年にかけて、がんの治療薬などの緊急に必要な医薬品を対象に、国家レベルで「目録」へ多くの医薬品が収載された。並行して新規「目録」収載の販売メーカーと、合計4回の薬価交渉が行われた。

1回目の薬価交渉は2015年に行われ(2016年保険収載された)、3社の販売する医薬品が「値下げ」された。なお、値下げされた3つの医薬品、慢性B型肝炎治療剤:テノホビルジソプロキシルフマル酸塩、非小細胞肺癌治療剤:イコチニブ(日本未発売),ゲフィチニブは、それぞれ67%、54%、55%と大幅な値下げに至った。

2回目は、2017年に、3ヶ月間の交渉によって、重大疾病治療薬、革新的医薬品、希少疾病治療薬を中心に、36品目の「目録」収載が決定され、同時に保険償還基準も決定された。 具体的には2016年の平均小売価格を基準に、交渉薬の薬価は最大で70%、平均で44%下落した。なお、今回、価格交渉した輸入薬の償還額は、国際市場の価格を下回った。

3回目は2018年、3か月間以上の交渉により、17の抗がん剤が保険償還リストに収載された。そのうち12の固形腫瘍薬と5つの血液腫瘍薬は臨床的有用性が高く、緊急性を要する抗がん剤に選定され、これらの医薬品では、平均小売価格と比較して、平均56.7%下落した。大半の輸入薬の償還額は、近隣諸国または地域の市場価格と比べて、平均で36%低くなった。 また交渉した17の医薬品のうち、2017年以降に発売された画期的新薬が10剤含まれていた。

4回目は2019年、119の薬が新たに交渉の対象に選定され、2017年に交渉された31品種の契約更新されたものと合わせて150に上り、過去最大の薬剤数を記録した。対象医薬品のうち、新規追加の中で70(52の化学医薬品と18の中成薬)が交渉決着し、平均価格は60.7%下がった。なお、3種類のC型肝炎治療薬の平均下落率は85%を超え、このほかの腫瘍や糖尿病などの治療薬では平均下落率は約65%であった。 契約更新の31のうち27は交渉決着し、平均価格は26.4%下落した。決着に至った薬のほとんどは、近年販売の新薬であり、臨床的価値が高く、がん、希少疾患、肝炎、糖尿病、多剤耐性結核、リウマチ免疫、心血管疾患、脳血管疾患および消化器官疾患などの治療薬、10以上の薬効の医薬品であった。

 

3.「目録」の動的調整及びその方向

上掲の通り、薬価交渉という新しいシステムを導入することによってがんや希少疾患などの高額な新薬も、患者アクセスは向上した。メーカー側も中国でより多くの患者の使用が期待され、たとえ値引きしても、数量の増加によって利益の増加が見込める。しかしながら、一部のメーカーは、交渉対象となる薬剤の選択、メーカーの関与がないことなどを挙げて、交渉収載のプロセスが不透明だと指摘している。今後、プロセスの透明性を高め、メーカーも納得する明確なガイドラインの制定など、より一層の改善が必要である。

今後、「目録」の見直しは「保険基金の支払い能力」、「臨床ニーズ」、「新薬開発のモチベーション」などのバランスを考慮し、新しい「目録」の動的調整ルールを策定することが重要になると思われる。

量的購買、薬価交渉等の政策を含めて、全体的に医薬品が関係する政策の方向性は明確になりつつある。国民の基本的な医療と健康のニーズを満たす必須医薬品は、一般の人々がアクセスしやすくなるよう、信頼できる品質、リーズナブルな価格、新しい剤型や投与経路、安定供給が必要である。その実現には、品質再評価の拡がりと量的購買の促進が重要である。その一方で、がんや希少疾病、重大疾病用薬などは臨床的に緊急性が高く、明らかな治療効果があるものは、保険収載等により販売量の増加を図ることで薬価を下げる対応が進められている。また補助的に使用される医薬品は、保険財政の圧迫等の理由で、合理的な使用が求められ、今後は、市場の縮小が予想されている。

 

参考:

1.「2019年の交渉薬を乙類として『国家基本医療保険、労働災害保険、出産保険医薬品目録』に収載する通知」(国家医療保険局人的資源社会保障部2019年第65号、2019年11月28日)

2.「2019年国家医療保険の交渉医薬品リスト」(国家医療保険局人的資源社会保障部、2019年11月28日)

3.「『国家基本医療保険、労働災害保険、出産保険医薬品目録』の発出に関する通知」(国家医療保険局人的資源社会保障部2019年第46号、2019年8月20日)

4.「17の抗がん剤を乙類として『国家基本医療保険、労働災害保険、出産保険医薬品目録』に収載する通知」(国家医療保険局人的資源社会保障部2018年第17号、2018年10月10日)

5.「36の交渉薬を乙類として『国家基本医療保険、労働災害保険、出産保険医薬品目録』に収載する通知」(人的資源社会保障部2017年第54号、2017年7月13日)

6.「薬価交渉の結果発表に関するお知らせ」(国家衛生計画生育委員会、2016年5月17日)

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